子宮筋腫、子宮内膜症(良性腫瘍疾患)について

子宮筋腫

border子宮筋腫とは?

子宮筋腫は女性の約3人に1人は有する疾患です。子宮筋腫は女性ホルモン依存性の腫瘍のため閉経後には縮小し無症状となるため経過観察することもできますが、生理がある間は大きくなるため、その大きさや症状によっては治療を検討する必要があります。子宮筋腫は子宮の発生部位により漿膜下子宮筋腫、筋層内子宮筋腫、粘膜下子宮筋腫の3つに分類されます。またそれぞれの発生部位によりその症状は異なります。

子宮筋腫とは

子宮筋腫の症状は腹部膨満感や頻尿などの圧迫症状、月経困難症、過多月経による貧血が主になります。また子宮筋腫は生殖年齢の女性に好発し、子宮内腔が変形する場合は不妊症や不育症の要因となります。

border子宮筋腫の治療法

無症状の場合は経過観察することも可能ですが症状が認められる場合は治療が選択されます。子宮筋腫に対する薬物療法はGnRHアゴニスト療法があります。GnRHアゴニストは子宮筋腫を縮小させることで症状を緩和し、6ヶ月間の連続投与が保険診療として認められています。
しかし投与中断により子宮筋腫は再度増大することと挺エストロゲン状態による更年期症状などの副作用が生じます。このため当施設ではGnRHアゴニストを主に術前治療として使用しています。手術療法は子宮筋腫に対して最も効果的な治療法とされています。その具体的な治療法としては、将来において妊娠を希望されるかいなかで手術方法が異なります。
妊娠を希望される場合は筋腫核のみを核出する子宮筋腫核出術、妊娠を希望しない場合は子宮全体を摘出する子宮全摘術、血管カテーテルを使用して子宮動脈を塞栓し子宮のみを閉経させる子宮動脈塞栓術があります。
なお子宮筋腫の大きさや数によりそれぞれの方法に対してのアプローチ法が異なります。

子宮筋腫に対する治療法のフローチャート
  • 子宮筋腫核出術
  • 【適応】将来的に妊娠を希望する場合など子宮温存を希望する方が対象となります。
    子宮筋腫の深さ、大きさおよび数により腹式・腹腔鏡下手術・子宮鏡下手術を決定します。
    術式を決定するために超音波検査・MRI検査・子宮鏡検査などを行います。
  • <当施設の手術適応基準>
  • 腹腔鏡下手術手術直前の最大筋腫核の大きさが12cm以下かつ筋腫核が10個以下の症例
    • 最大の子宮筋腫の大きさが12cm以下
    • 子宮筋腫の数が10個以下
  • 腹式手術上記腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術の適応とならない症例
    ※術前の薬物療法の効果やその他の画像所見により適応を判断することがあります。それぞれの適応に対しての術式の選択に関しては、担当医とご相談ください。
  • 子宮全摘術
  • 【適応】今後妊娠を希望されない方が対象となります。
    MRIなどの画像診断を参考として、子宮の大きさにより腹腔鏡下手術か開腹術を選択します。
    子宮悪性腫瘍を除外する目的で事前に子宮頸部・体部細胞診をおこなう必要があります。
    子宮がないため手術後に生理は来なくなりますが、女性ホルモンを産生する両側卵巣は残りますので、術後に女性ホルモンの欠落症状(更年期障害など)は起こりません。
  • <当施設の手術適応>
  • 腹腔鏡下子宮全摘術MRI画像検査で子宮の大きさが腰椎と仙骨の境界(岬角)から臍までの症例
  • 腹式子宮全摘術MRI画像検査で子宮の大きさが臍の高さを超える症例
  • 子宮全摘手術
  • ※上記適応内においても、子宮筋腫の位置などの問題や悪性が疑われる場合は腹腔鏡下に施術ができない場合もあります。また、上記適応外でも、術前の薬物療法により施術が可能となる場合もありますので、担当医とご相談ください。
  • 子宮鏡下手術
  • 【適応】子宮内腔に突出度合いの高い粘膜下子宮筋腫が本術式の適応になります。
    また子宮鏡下手術で摘出できる子宮筋腫核の大きさは3cm以内の症例に限ります。
    術前に本術式の手術適応を計るためには、術前のMRIと外来でのファイバースコープによる子宮鏡検査が必ず必要になります。
  • 子宮鏡下手術は腟から子宮内に電気メスを装備した細型スコープを挿入して、子宮内に灌流液を流しながら病変を切開して取り除く手術です。子宮内腔に大きく突出した病変をお腹を切ること無く切除することができます。また術後の痛みもきわめて少ないため、腹腔鏡下手術よりも早期に退院および社会復帰することが望めます。
  • 子宮鏡下手術
  • 子宮筋腫核の大きさが3cm以下
    子宮内への突出率が80%以上
  • 子宮動脈塞栓術
  • 【適応】子宮筋腫による症状(過多月経、月経困難など)があるもの・今後妊娠の予定のないもの。
    (ただし、筋腫の種類により適応とならない場合もあります。)
    妊娠例、子宮腺筋症、過去3ヶ月以内のGnRHアゴニスト投与例、子宮・卵巣の悪性腫瘍が疑われる症例、骨盤内感染のある症例、血栓既往のある症例、ヨードアレルギー(造影剤アレルギー)のある症例は適応となりません。
  • 子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization; UAE)とは、太ももの付け根を5mm程度切開して血管カテーテルを挿入し、塞栓物質を使用して、子宮動脈(子宮を栄養する血管)を塞ぎます。これにより、子宮筋腫に向かう血液を減らし、筋腫を縮小することができます。
    子宮筋腫の容積は3ヶ月で50%程度、6~12ヶ月で30%程度にまで減少する見込みです。UAEは治療のための放射線科医学(Interventional Radiology)の一つです。その施行は十分な知識を持ち症例経験の豊富な放射線科医が行っています。術前の評価や入院中の管理、術後の経過観察は放射線科と婦人科の共同で行っています。
  • 子宮動脈塞栓術

子宮内膜症

border子宮内膜症とは?

子宮内膜が子宮外に生じた疾患です。卵巣や子宮周囲の臓器に発症することが多く、子宮内膜症は腹膜表面に子宮内膜組織が浸潤した腹膜病変、卵巣内に入り込み卵巣が腫大したものを卵巣チョコレート嚢胞、ダグラス窩、膀胱、尿管などの腹膜に発症し硬い結節を形成したものを深部子宮内膜症に分類されます。また子宮の筋層内に子宮内膜組織が入り込み子宮が腫大したものを子宮腺筋症と言います。
症状は月経痛、慢性骨盤痛、不妊、性交時痛、排便痛などがみられることが多く、月経がある間は症状が増悪する可能性があります。

子宮筋腫とは
border治療

治療方針は大きく①薬物療法(鎮痛剤またはホルモン剤)②外科的手術(腹腔鏡下手術または開腹手術)があげられます。治療は病変の場所や大きさ、症状に加え、患者さんが今後妊娠を希望するか、年齢などを総合的に考慮し決定します。

border薬物療法

疼痛に対しては鎮痛薬を使用します。しかし鎮痛剤の効果が乏しく月経を繰り返すたびに症状が増悪する場合はホルモン療法が効果的です。子宮内膜症に対するホルモン療法には下記の薬品があります。

  • 1.低用量ピル卵胞の発育を抑え排卵を抑える作用により月経時の疼痛の軽減と月経血を減量できます。子宮内膜症に対して保険適応となっている低用量ピルは「ルナベル」「フリウェル」、超低用量ピルは「ルナベルULD」「ヤーズ」などの種類があります。内服方法は周期的に内服して月経を起こさせる周期投与法と、長期的に内服してできるだけ月経を起こさずに月経時の疼痛の軽減を期待する連続投与法があります。
  • 2.プロゲスチン製剤子宮内膜症の治療として使用されるホルモン製剤です。プロゲスチン製剤として子宮内膜症には「ディナゲスト」が保険診療で使用できます。プロゲスチン製剤は排卵を抑制するのみではなく子宮内膜症の病巣への直接的な作用により病変の縮小や症状の改善が期待できます。一日2回の連続内服を行うため月経がなくなります。このため月経に伴う痛みなども改善できます。
    服用初期は不正出血がおこる日数が長いですが、服用期間が長くなることで減少することが多いです。また本製剤は子宮内膜症の活動を抑えて手術を安全に行うための術前治療として使用することもあります。
  • 3.GnRHアゴニスト1か月に1回注射をすることで脳下垂体からのホルモン分泌を抑制し卵胞発育に伴う卵巣からの女性ホルモン「エストロゲン」の産生を低下させ子宮内膜症の病状の改善が期待できます。副作用として、低エストロゲン状態による更年期様症状を引き起こすため、長期的な投与は困難となります。副作用の面から最大6か月まで保険適応での治療が行えます。当施設では本剤による維持療法が行われることは希で、本剤の使用は主に子宮内膜症の活動を抑えて手術を安全に行うための術前加療として使用されます。
  • 4.ダナゾール男性ホルモンの一種であり、投与することで卵巣から産生される女性ホルモン「エストロゲン」の産生を抑制し、病状の改善を期待する治療薬です。また薬物の特性から貧血の改善が期待できます。副作用として男性化症状(にきび、多毛、嗄声など)が起きる可能性があり、子宮内膜症に対しての治療には低用量投与が行われます。
  • ※低用量ピル、ダナゾールの投与では、重篤な副作用として血栓症があります。健常の患者さんが血栓症を発症する頻度は4-5/10000人ですが、低用量ピルを使用する場合は2-6倍に発生リスクが高まるとされています。
    また使用開始から3ヶ月までや、一時中止後に再開した場合などもその発症リスクが高まります。このためこれらの薬剤の使用においては定期的な問診および血栓症を予測するための血液検査が必要となります。
    また過去に血栓症を発症していた場合や凝固機能異常のある患者さんに対してのこれらの使用できません。また血栓症のリスクの高い喫煙習慣のある患者さんへの投与も行えません。さらに40歳以上の患者さんには血栓症のリスクが高まるため、リスクの少ないプロゲスチン製剤を使用するよう推奨しています。
border外科的治療

薬物療法により月経困難症などの症状が改善しない場合や妊娠を早期に希望する場合は外科的治療を行います。

  • Ⅰ.卵巣チョコレート嚢胞に対する外科的治療子宮内膜症の病変が卵巣内に入り、卵巣が腫大したものを卵巣チョコレート嚢胞と言います。子宮内膜症の方の最大約40%に卵巣チョコレート嚢胞を有します。卵巣チョコレート嚢胞は月経困難症などの疼痛の原因のみではなく、卵巣嚢胞への感染破裂のリスクがあります。また年齢や大きさにより卵巣癌になるリスクがあります。手術によりこれらの改善とリスクの軽減を待できます。
  • ・手術術式は正常卵巣を残す卵巣嚢胞摘出術もしくは病側の卵巣と卵管を合わせて摘出する付属器摘出術がありますが、術後に妊娠を希望される方は卵巣嚢胞摘出術を選択します。いずれにおいても子宮内膜症性による癒着の剥離術が必要となります。
  • ・手術により疼痛の改善と自然妊娠を期待することができますが、手術の侵襲により卵巣予備能(卵巣内の卵子数)が低下する恐れがあります(☆参照)。特に手術前より卵巣予備能が低下している患者さん、両側の卵巣チョコレート嚢胞の手術を受ける患者さん、40歳以上の患者さんにおいてはその可能性が高くなるため、手術の選択に関して慎重に行う必要があります。
  • 卵巣嚢胞摘出術の再発率は5年で約40%とされています。このため術後すぐに妊娠を希望されない場合は薬物療法による再発防止が必要となることがあります。
  • ・手術の既往がある再発症例で癒着の程度が強いことが予想される場合は、腹腔鏡下手術ではなく超音波ガイド下に卵巣嚢胞内容を吸引してエタノールを注入するエタノール固定術が適応となる症例があります。
  • ☆卵巣予備能について
  • 卵巣にある卵子の数(排卵する卵の数)は胎児期に作られ、生まれた時に100万個あった卵子は35歳を超えると10万個となり、40歳を超えると1万個、千個と更に減少し、残存卵子が100個以下になると閉経すると言われています。その限られた数の卵子は卵巣チョコレート嚢胞に対する手術侵襲により減少することがわかっています。
    また術前よりすでに卵巣予備能が低下している場合や過去に卵巣の手術を受けた後に再発した症例に対しては、手術によりさらに低下する恐れがあります。卵巣予備能の評価は様々の方法があります。その一つに卵巣内の卵子の数を反映すると言われているAMH(抗ミューラー管ホルモン)があります。血液検査で行えますが、現在この検査のための保険適応はなく自費診療となりますが、ご希望のある方は主治医と相談してください。
    しかし当院では、血清AMH値により手術の適応を判断するのではなく、症状緩和とのバランスで手術適応を判断しています。
  • Ⅱ.子宮腺筋症に対する外科的治療子宮腺筋症に対する外科的治療には妊孕能温存手術である子宮腺筋症核出術と根治術である子宮全摘術があります。しかし子宮温存を希望される方は上述の薬物療法やミレーナ(子宮内黄体ホルモン放出システム)による保存的治療が推奨されます。
  • Ⅲ.深部子宮内膜症に対する外科的治療深部子宮内膜症は子宮内膜症の中で最も重篤な病態とされています。多くの深部子宮内膜症は子宮後面と直腸のスペース(ダグラス窩)に癒着を引き起こした病態であるダグラス窩閉鎖として認められます。
    また癒着部位に硬い結節(深部病変)を形成することもあります。これらの病態により極めて重度の月経困難症や慢性的な腹痛が引き起こされます。薬物療法により疼痛が改善することがありますが、コントロールが不良な場合はダグラス窩閉鎖開放術深部病変摘出術を行うことにより症状が改善されます。
  • ・手術は原則として腹腔鏡下手術で行います。深部子宮内膜症は卵巣チョコレート嚢胞を伴うことが多く、卵巣チョコレート嚢胞への外科的治療を併用します。
  • ・ダグラス窩深部子宮内膜症をもつ患者さんに対して術後妊娠を考慮した子宮・卵巣温存のための標準術式としてダグラス窩癒着剥離+深部子宮内膜症病変切除を行っています。疼痛の原因となるダグラス窩の深部子宮内膜症病変を取り除くためには子宮後面と直腸~S状結腸の癒着剥離を行う必要があります。
    腸管の癒着剥離を行った場合は腸管の表面の漿膜が欠損するため一部の腸管壁が菲薄化(薄くなること)してしまいます。腸管が菲薄したまま手術を終了すると術後に菲薄部位に穿孔が生じて腸内容が腹腔内に漏出し重篤な腹膜炎が発生してしまいます。この状況を改善するためには開腹手術による穿孔部位を含めた腸管の切除が必要となり、またお腹の中の炎症の広がりによっては一時的に人工肛門が必要となることも考慮しなければなりません。
  • この重篤な術後合併症を回避するためには、ダグラス窩の癒着剥離術により腸管表面が菲薄した場合はその部位の縫合による修復を行う必要があります。また術後にこれらの修復部位の安静を計るために、しばらくの間はお食事を止めて入院期間を延長して経過観察を行う必要があります。
    症例によってはダグラス窩深部子宮内膜症病変が腎臓と膀胱をつなぐ尿管の近くに存在している可能性があり、術中に尿管を分離してから病変を取り除く必要があります。しかし、極めて希ですが手術時に尿管の損傷や断裂を起こす可能性があります。損傷が生じた場合は術中に尿管ステントを留置して損傷部位の修復あるいは吻合を行い、術後しばらくの間は尿道カテーテルを留置し入院期間を延長して経過観察を行う必要があります。
    また深部子宮内膜症は直腸、膀胱、尿管自体に発生していることもあり、外科的治療が必要と判断された場合は必要に応じて専門の診療科(外科や泌尿器科)と協力して治療を行う必要があります。
  • ・腹腔鏡下手術により術後疼痛改善効果は極めて高く有用な術式です。術後12ヶ月における疼痛は術前と比較して有意に減少します。しかし再発のリスクの高い症例や術後疼痛が再燃した場合は薬物療法を開始する必要があります。